「脱、モヤシってさ。」
仕事に同行するブックマンを待つ神田の前を2度目にランニングするアレンが通過した時、同じく並んで立っていたラビがフォローした。
「‥ふん。モヤシがウドになっても変らんな。」
「そっかなぁ、アレンは良いヤツだと思うけど?」
しゃがんで上目遣いに神田を見たラビは、乗ってこない様子の神田にそっと肩を竦めた。
「そいや、アレンってまだイチゴ族なんだよなぁ。」
「‥‥‥イチゴ?」
乗りたくは無いが、知らない事があるのは不愉快らしく、神田は聞き返した。
「15歳。」
人差し指立ててニッコリ笑ったラビに
「いくつだ、お前。」
「ユウと同い年さ。ちなみに死語だってブックマンは記録し‥」
頭上に落ちてきた拳に、ラビは大げさに悲鳴を上げた。
「ユウは乱暴モノさ。ミランダなら‥」
「こっちだって仕事じゃなけりゃ誰がお前と‥」
「ミランダがどうかしたの?」
ミランダのいるところ、悲鳴あり。また何かあったのかと、リナリーが二人を覗きこんだ。
「何でもねぇ。」
暗にあっちへ行けという態度もどこ吹く風で、リナリーはラビを見た。
「あ〜、ほら、アレンがさ‥うん。」
「アレン君?」
「そ、アレンはなんでミランダを好きなのかな〜って、その、歳が違うじゃん?」
「アレン君がミランダを好きなのって、やっぱりそういう意味の方?」
「え‥?」
よもやリナリーはアレンが?
俺とした事が失敗した〜?
焦るラビを気にも留めず、リナリーは指を小さな顎に当てた。
「私はお母さんみたいに心配して、一時的だけど治してくれて‥」
あ、気になるのはアレンじゃなくてミランダの方さ
ほ〜、と息と浮くラビの脇から、神田がぼそりと言った。
「母親か、酷いな。」
「ミランダは、、、そりゃ危なかしいトコもあるけど、一生懸命なのよ。ヒドイだなんて‥」
「あの女が酷いのは今更だ。俺が言ってるのはお前の方。25女に、お前ような大きな子供がいるイメージを押付けるのは酷いと思うが?」
リナリーはムッとしたようだったが、すぐに口元だけで笑った。
「神田は、ミランダの歳を知っているのね。私やラビの歳は知ってるのかしら?」
「!」
抜刀どころか、しまったという顔をする神田に、ラビとリナリーは頷いた。
「ふ〜ん、だけどミランダは‥」
「ミランダさんがどうかしたんですか?」
3周目のアレンが、ミランダの名前に走るのを止めて寄って来た。
「訓練はもう終わりか?モヤシ。」
「人には其々優先順位があるんです。で、ミランダさん?」
神田に言い返した後、アレンはリナリーを問いかけた。
「アレン君は、ミランダのどこをを好きになったの?」
「えっ?」
不意打ちに赤くなったアレンは、一呼吸おくと、いつもの調子で笑った。
「膝枕、、、ですかね。」
「膝枕?」
「ほら、初めてミランダさんがイノセンスを発動した時。僕、へろへろで‥」
「モヤシ。」
「は〜い、ケンカはあとあとさぁ?」
火花が散りそうになったアレンと神田の間をラビが引き離す。
「とにかく、、、気を失っていた僕は体が軽くなる感じに気付いて目を開けました。そしたら‥」
「ミランダが膝枕をしてくれてたのね?」
「はい。女の人の膝枕って、僕、初めてだったんですけど、柔らかくって、、、温かくって‥眼を開くと視界いっぱいにミランダさんの心配そうな顔がありました。」
うっとり話すアレンの足を、リナリーとラビが其々に踏んだ。
片方ずつ足を持ってケンケンするアレンを他所にラビとリナリーは真面目な顔を付き合わせた。
「でも、そうか‥気を失うと膝枕してもらえる確率が高いってことさ!?」
「!」
顎をひねるラビの横で、神田は赤くなったり青くなったりしている。
「神田?」
「ち、、違うっ。」
片手で顔を覆いながら首を振る神田。
「何が違うさ?」
「膝枕は嬉しいけど、他人には見られたくない‥ってとこね。」
リナリーの説明にラビと復活したアレンはふんふんと頷いた。
「ところでアレン君。ミランダの膝枕って柔らかいの?」
「え?柔らかい、、、と思いますけど?」
「だ〜けど〜、アレンは女の人の膝枕、初めてだったんさ?」
分るさ?とラビに突っ込まれ、アレンは困ったように笑った。
「えっと、、、マナより柔らかかった‥から‥?」
ラビはチチチっと首を振った。
「ほんじゃあ、俺がぁ」
「ダメです!」
「ラビは女の人に膝枕してもらった事あるの?」
アレンの勢いより、リナリーの質問にラビはぐっと詰った。
「それじゃ比較できないじゃない。他は‥」
リナリーがちらりと神田を見ると、神田はふんとそっぽを向いた。
「そだ!クロちゃんなら分るッしょ。エリアーデなら膝枕ぐらいしてたさ。」
「ふん。他人の評価など無意味だ。」
アレンが反対するより早く、神田が切り捨てる。
「ふ〜ん。じゃ、神田は自分で試すのね。」
馬鹿にした様子の神田に、リナリーが返すと
「女の膝まくらんなぞ、くその役にも立たん。」
神田は吐き捨て、さっさと歩き出した。
「ユウ?」
「先に行く。ブックマンにはそう言っておけ。」
足早に階下へと去っていく神田の耳が赤い事に、リナリーは呆れて笑った。



慌しい足音で現れたアレンに、ミランダは縫い物の手を止めた。
「アレン君?どうしたの?」
アレンはミランダの傍まで寄ると、スカートの上の団服を除けて、膝の上に頭を乗せた。
「ア、アレン君?」
「‥‥‥」
「アレン、、、君?どうしたの?どこか、、、怪我でも?」
「ミランダさん!」
ガバッと起き上がったアレンの頭と、覗き込んでいたミランダの顎の間で火花が散る。
「いてて‥と、ミランダさん、大丈夫ですか?」
「ええ‥なんとか」
顎を擦りながら笑ったミランダに、アレンは一息つくと視線を膝を隠すスカートへ落とした。
「膝‥」
「え?」
「ミランダさんの膝は、僕専用でお願いします。」
「はあ?」
「お願いします!」
手を合わせて頼み込む姿は初めて会った時と同じで、ミランダは微笑んだ。
「よく分らないけど、、、アレン君の気が済むなら、それでいいわ。」
「ホントですか?」
嬉々として見上げてくるアレンにミランダも嬉しくなって笑うと、アレンが横へ置いた団服を再び手に取った。
「繕い物ですか?‥ミランダさんの、、、じゃないですね?」
「ええ。クロウリーさんのです。あの方も世間には不慣れなようで」
楽しそうに微笑むミランダに、アレンの顔から血が引いていく。
「この間一緒にコムイ2.6号でコンビネーションの訓練をしたんですが、クロウリーさん、わたしより先にひっくり返ってしまって‥気が付いたクロウリーさんたら、わたしをエリアーデって呼ぶのよ。クロウリーさん、エリアーデって人に膝枕をしてもらってのね。‥‥?、アレン君?」
黙って立ち上がったアレンの様子に、ミランダはアレンの袖を引っ張った。
「あ‥あ、ちょっと‥クロウリーさんと、僕も訓練しようかと。」

その日の夜、アレンとクロウリーはコムイから、修理という名のお仕置きをたっぷり受ける事になった。

気ぃ失ってるトコを膝枕ッすよ?女ッけ無かった生活だったンすよ?蔓延っていた奇麗どころは師匠を好きという理解不能な思考回路だし、リナリーは同級生って感があるし。大人の、女性の、膝枕。健全な青少年なら転ばんはずが無い(爆)。リナリーは完全マザコンで書いてますが、アレンもまだ今はマザコンと異性の狭間な‥頑張れ少年!青年への道程は‥って神田も達してないですね、7月竜が書くと(スミマセン;汗)2008/1/12